第29回 全国子どもとことば研究集会
【講演】
23日(日)15:00〜17:00

「ことば・こころ・つながりあい」
〜ことばの異変にどう対処していくか〜

子どもとことば研究会代表 元立教女学院短期大学教授
今井 和子(いまい かずこ)


概要

 今、日本の社会では…大人のことば、子どものことばに際立った特徴がみられなくなっています。ことばづかいだけでなく、服装、知識など日常生活のあらゆる面で大人と子どもという境界が揺らいでいます。子どもが子どもらしい生活をおくれなくなってしまったということです。その理由としては、子どもが早いうちから学力の過当競争の中に巻き込まれていること、言い換えれば遊びの体験が失われてきたことがその大きな要因です。フレーベルが「遊んでいる姿の中にこそ、その子の未来がある」ことを述べていますが、今や幼児期さえも親の早期教育への期待が大きく、空洞化しつつあります。
 特に今、生じている世間でのことばの異変について考えてみますと……空疎な言葉・実態のないいい加減な言葉、が渦巻いています。
 テレビコマーシャル 商品を売り込む言葉 政治家のことばなどです。
 独協大学名誉教授・日本コトバの会会長の下川浩氏は2015年6月8日の東京新聞の投書欄に次のように訴えています。『 「平和安全法制整備法案」などという名づけの魔術は、もはやウソやウソをごまかすコトバの魔術を超えている。「積極的平和主義」と同様に一般の人々のコトバづかいとは全く逆の意味でコトバを使っている。私はこの法案を「戦争危険招来法案」と呼ぶ。ついでながら「国際平和支援法案」は「国際平和破壊法案」と呼ぶ。(
後略)』
 日常的に政界で大多数を占める政治家の言葉が全く真実を語らない無意味な、国民をだます言葉になっていることは紛れもない事実です。
 またテレビがつきっぱなしの生活をしている乳児の初語の中には「てベビ」「カイジュウ」などが出てきても不思議ではありません。しっかり受け止めなければならない家族の肉声の言葉と、聞き流していい言葉が同一水準になり、言葉に気持ちが響かなくなるのではないでしょうか。
 また語彙力の低下と、現実の状況から遊離した記号化された言葉のやり取りも日常化しています。『言葉は単にコミュニケーションの手段だけではない。私たちは何かを考える時、頭の中で必ず言葉を使う。語彙が豊かであれば思考も豊かになる。語彙が貧しければ思考も貧困なままです。「言葉」は、ほとんど「思考」に等しい。(略)このままでは日本中が思考力も情緒も乏しい若者たちであふれてしまうのではないか(藤原正彦 進研ニュースVIEW 21 ベネッセ教育開発センター)』
 さらに今日の言葉の崩壊は暴力を生み出しています。まさに「言葉の危機は心の危機であり文化の危機である」と言う柳田邦男氏の言葉を噛みしめ、人生の最初の6年間に携わる私たち保育者こそ、言葉に心を吹き込み言葉への信頼を取り戻していかなければならいことを伝え、子どものことば獲得のプロセスで最も大切にしたいことについて述べました。


参加者の感想から

ことばを丁寧に拾っていくこと、「受け止めて」返していくこと……。どの言葉も力強く感動しました。こんな保育をもっとしていきたい!と強く思うことができて元気をもらえました。

今井先生のお話は、いつも子どもの立場に立ち、子どもの心、気持ちを受け止めることの大切さを教えて下さいます。しかし、改めてわが園の実態、保護者の様子を見てみると、日々余裕のない忙しい親、入所希望者を受け入れてあげようとめいっぱいの現場の中で、一人一人の子どものつぶやきや思いを受け止めきれない日々を送っています。でも、子ども達は待ったなしに成長しています。親子の愛着を育て、子どもが安心して自分を発揮できる保育を、楽しい遊びを、「また明日来るからね」と言って帰っていく子がいっぱいの保育園を目指したいと思います。